vol.1  伊勢うどん 

 これほど、他県の方々に説明するのが難しい特産品はありません。(汗)

 筆者の経験上、何の予備知識も持たない「伊勢うどんビギナー」の方に、伊勢うどんをおすすめすると、一様に怪訝な顔をされます。(特に、関西の方)

 まず、食べる前、「これ汁ないの?」
 ついで、下の汁を発見「これ辛くないの?」
 最後に食べて「こしが無いやないか・・・・・」

 そもそも、うどんを大別すると麺そのものを賞味するタイプ(讃岐うどん、水沢うどんなど)と、麺とかけ汁、それに具の一体化を楽しむタイプ(大阪のうどん)に分かれるといいます。
 しかし、伊勢うどんはどちらにも属しません。麺は柔らかくて歯ごたえも喉越しの鮮やかさもなく、味わうべき汁はほとんど麺にからめとられてしまいます。

 慣れていただければ、伊勢うどんの素朴な味わいと溜まりの独特の風味にくせになってしまうのですが、まず、入り口でつまずく方の多い食べ物なのです。

 この伊勢うどんが伊勢地方を代表する食としての地位を与えられた背景には、何といっても伊勢参りの賑わいがあります。

 江戸時代の伊勢の賑わいは、「賑わしきこと、天(あめ)の下に並びなし」とまで記されております。(合唱人でしたら、柴田南雄作曲の「三重五章」(委嘱・初演 三重県合唱連盟)を参照ください。(熱弁))

 年間何十万も訪れる道中の人々の空腹を満たすのにうどんは格好の食事だったのです。
 極太の麺はあらかじめ1時間茹でておいてあり、注文には茹で直すだけで即座に対応できます。太く、かけ汁が少ないのも、客の回転効率を考えた上では好ましいのです。お餅と並ぶ日本初のファーストフードと言われる由縁がここにあります。
 
 伊勢うどんファーストフード説を裏付けるように、伊勢街道沿いには、名物の餅が多いのです。(羽二重餅、松毬餅、二軒茶屋餅、返馬餅、赤福)等々)

 で、要は何が言いたいかというと、かつての伊勢の賑わいから生まれた食品が「伊勢うどん」なのだということです。

 一目見て毛嫌いせず、是非、江戸時代の伊勢参りの旅人になったつもりで、伊勢うどんを食してやってください。
 
記  砂男